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本日、二月十四日、バレンタインデー。 学校中の女の子が気合を入れてチョコを作り好きな男の子に渡す日。 朝から放課後まで校内どこでもオールデイ告白タイム。 そんな、どこもかしこもハートが飛び交う放課後の校内を、私は一人で足早に生徒玄関に向かっている。 その理由は至極簡単なもので。 非常に本当に非常に残念なことに、今現在の私には気になる人も好きな人もいないのだ。 だからか、さっきからすれ違うチョコを片手にどこかへと向かう女の子たちが眩しく見えてしょうがない。 そして、精神的に悪いような気までしている。 やめてくれ、そんなピンク色なオーラとハート全開で私の横を通らないでくれ。 通るなら、せめてそのオーラ少しわけて。 自分でもアホらしいと思うようなことを考えつつ、玄関へと歩を進めていくと、前方からカップルがやってきた。 並んで歩く男の手にはチョコが見える。 ああ、もう渡されて一通り終わったあとですか。 いいですね、幸せ全開って感じで。 だめだ、直視できない。 見るたびに、私の心のHPがざりざりと削られていくようだ。 どうしようもなく切なくなり、逃げるように廊下を駆け抜けた。 なんか、目から汗が出そう! いや、今なら出せる!! ああ、もう!みんなしてお菓子会社の策略にのせられてないでよ! そう心の中で叫び、ひたすら廊下を行く。 そういえば、今日の帰り道はずっと一人なのか…。 いつもだったらかすがと一緒に帰るのだが、 切ないことにかすがまでもお菓子会社の策略に嵌り、チョコを片手に上杉先生の元へと旅立ったのだ。 悔しいけど成功を祈る! さらに溢れそうになる目からの汗を感じながら、冷たい空気の張り詰める二月の廊下を走り抜けようやく玄関に着く。 ここまで来るのになんだかすごい疲れた気がする。 これはきっと気のせいじゃない、そう思いながら自分のクラスの下駄箱のところで曲がった。 すると、見慣れた一人の男の姿が目に飛び込んでくる。 「あれ、じゃない。どうしたの、一人?」 その見慣れた男、ドアとドアの間の壁に寄りかかっていたクラスメイトの猿飛佐助が声をかけてくる。 「え、やだ。私、百人くらいに見える?」 自分の下駄箱からローファーを取り出し、靴を履き替えながら答えた。 いつものように冗談で返し、二人で笑いあう。 靴を履き替えて隣に並ぶと、マフラーに顔を埋めていた佐助が口を開いた。 「今日はバレンタインだってのに寂しいね。」 「言わないでくれ…、それは…。」 ごめんごめん、と笑いながら謝られる。 佐助だって一人でこんなところにいるんだからお互い様じゃないか。 一人で、玄関で、まるで誰かを待ってるみたいに突っ立ってて。 …もしかして、いや。 もしかしなくても、今佐助がここにいるわけはあれだろうか。 どこかのクラスのかわいい女子に呼び出されちゃってとか、そんなんだろうか。 そういえば、佐助ってモテるもんなぁ。 黙ってれば、普通にかっこいいし。 喋るとアレだけど。 なんか所帯じみてるというか何というか。 「ね、佐助は何してんの?こんな寒いとこで。誰かからのお呼び出し?」 純粋に疑問に思い何の気なしに尋ねると、佐助はふっと目を細めた。 「いや、そういうのは全部断ったよ。」 「ふーん…、って、え、ちょっ!全部断った!?」 思わぬ返答につい一瞬聞き流してしまったが、とんでもない爆弾発言をこの男はしてくれちゃっている。 何言ってるの、コイツ! バレンタインのお誘いを全部断るなんて、え、うん、バカ? 「私…、佐助がこんなにもおバカだとは思わなかったよ…。」 「ってば失礼だなー。生憎、誘ってきてくれたコの中に俺様が待ってるコはいなかったってだけだよ。」 「待った、待ってるコって!?なになに、佐助の好きなコ!!?」 大げさに肩を竦めて言ってみせる佐助に詰め寄った。 佐助に好きなコがいるなんて初耳だ。 これはもう、興奮せずにはいられない。 ついさっきまで急降下していた気分が一気に跳ね上がる。 なんだかんだ言いつつ、友達のコイバナってやつは気になるように出来てるらしい自分。 「うん、そう。好きなコ。」 「うわー!ちょっと、教えて教えて!!」 佐助の好きなコなんて聞いたことないよ! 彼女はいても毎回好きで付き合ってるって感じではなかったし…! そんな佐助の好きになるコって一体どこの誰なの!? 頭の中でぐるぐると佐助に聞きたくて仕方ない言葉が廻っていく。 すると、佐助がちょっと耳貸してと言う。 それにすらどこかもどかしさを感じながら、自分より背の高い佐助に耳を向ける。 少し屈むようにして私の耳に佐助が口を近づけ、そっと告げられる。 「アンタだよ。」 まてまてまて、うちの学校にアンタさんなんて名前の方はいらっしゃらないよ。 ああ、でも、目の前とかにいる人を代名詞でアンタとか言ったりするね。 でもさ、今、目の前にいるのなんて私だけだよ? 「ずっと待ってたのにさ、ったら誘いに来ないし。もう、俺様待ちくたびれちゃった。」 ………これってアレだろう?いわゆる、ドッキリだろう? 今に政宗とかが看板持って、なんか今すごい顔を赤くしてる私を笑いに来るんだ。 きっとそう、絶対そう、そうに違いない! 「ちょっと、?ちゃんと、俺様の話聞いてる?」 「き、聞いてますとも…!」 「今、彼氏いないよね?」 バカみたいにどもりながら、いませんと何故か敬語で答えると、いつものように佐助が笑いながらまた聞いてくる。 「じゃあさ、俺様と付き合っちゃわない?」 「…え、えぇ!?」 「はい、決定ー。じゃ、帰ろっか。」 ネジが一本はずれたみたいに頭が上手く動かない。 強引に決められたそれに、私は異論を唱える暇すらなくて。 佐助がぎゅっと私の手を握った。 どんどんと熱を持っていく手につられるように、顔に熱が集まって熱くなる。 心臓がどくんどくんと跳ねて煩くってたまらない。 佐助に握られた手と真っ赤になってる顔の熱にうなされながら、 とりあえず、これはどっきりでも何でもなくて本当の本当に佐助からの告白なんだと沸騰しかけた頭で理解した。 |