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嗤
う、
影
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「ねぇ。」
静かな部屋に声が一つ響いた。 じっと俺の目を見据えながら、小さな赤い唇が動く。 障子から微かに漏れる陽の光が下に組み敷かれている姫さんに射していた。 「どうしたので御座るか?」 一言発しただけで口を開こうとしない姫さんに、先を促すように一つ問う。 その言葉を聞き何かを確信したように、姫さんがふと視線を逸らして笑みを浮かべた。 どこか歪なその笑みに、つい釣られて俺まで笑ってしまう。 瞬間、また視線がかち合い、ひどく楽しそうな声色で言葉を紡ぐ。 「お前、幸村じゃないでしょう。」 にぃと赤い唇を三日月のように歪めながら言い、俺の頬に手をあてがった。 「よく、化けたものね。見た目だけならそっくりだわ。」 「そりゃどーも。」 くつくつと俺の下で笑いながら言う姫さんに一言だけ返す。 何が楽しいのか笑みを浮かべ、おとなしく組み敷かれたまま。 頬に当てられた手がどんどんと熱を奪っていく。 するりと頬を一撫でする手はとてもその人の手とは思えないほど、冷たい。 ああ、ほら、やっぱり。 「姫さんも随分と化けるのが上手いね。」 そう言うと、頬から移動して髪を弄っていた手が動きを止める。 きっと、今の俺の顔も旦那とは似ても似つかないような表情をしているのだろう。 姫さんの瞳に映る自分の姿を確認することは容易いが、あえて見ないことにした。 「悪かったわね、本物のお姫様じゃあなくて。」 全く悪いなんて思ってないだろうに、笑みを浮かべたまま姫さんと同じ顔で言ってのける。 ああ、ほら、また。 「佐助は本物のお姫様を御所望かしら?」 するりと空いていたほうの手も首に絡ませながら一つ問われる。 絡むその手はやはり冷たい。 首筋に当たるその冷えた感触に背筋がぞくりとなるのを感じた。 わざとやっているのか、そう思いつつ一つ睨むと満足そうな表情を浮かべられ。 全くどうして見た目だけは姫さんにこうも似ているのか。 その問いだって、本物の姫さんならきっと思いつきもしないだろう。 「まさか。俺様じゃ身分が違いすぎるよ。」 「ああ、それもそうね。」 今、気付いたとでも言いたいのか。 驚いたような表情にがらりと変える。 その演技に少し感心しつつも、ため息が漏れてしまう。 「で、アンタはどうなの?旦那のほうがよかった?」 「勿論。」 ため息混じりに問うと、当然だとでも言わんばかりに返される。 本当、見た目だけは姫さんにそっくりなものだ。 本物の姫さんなら、そんな正直に答えたりなんかしないだろう。 「冗談よ。それに、あの方は本物のお姫様にしか興味が無いじゃない。」 「旦那はずっと、姫さん一筋だからね。」 目を逸らし天井を見つめながら続けられた言葉は当然と言えば当然のもので。 確かに、旦那は本物の姫さんしか見ちゃいない。 だが、だからといって、この女も旦那に好かれたいなんて思ってるようには全く見えないのだが。 しかし、旦那も旦那だ。 一筋というよりは、依存とでも言ったほうが正しいかもしれないくらいに嵌っている。 あの入れ込みようは考え物だとまた一つため息をつくと、不意に首筋に絡められた腕に力が入るのを感じた。 片方の手が後頭部の髪を掴み、ぐっと押される。 息がかかるくらいの距離まで近づく顔と顔。 今度は何かと眉を顰めると、とても本物の姫さんには出来そうも無い意地悪そうな表情で口を開いた。 「じゃあ余りものの偽者同士、仲良くしましょうか?」 そのまま、絡ませてきた腕に引きずり込まれるように唇が重ねられた。 嗚呼、ほら、どうしようもないほどに、
(に姫さんと違う箇所を見つけては喜んでいる自分が、いる)
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