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ふと呟かれた言葉はどこか諦めを含んでいるように思えた。
「私はいつまでお前を見ていられるのかしら。」 隣に座る姫様はどこか遠くの方を見ていた。 独り言のような言葉を一つ零しただけでこちらを見ようともしない。 まるで表情をなくしたような顔で、ただただ自分ではない何かに視線を向ける。 姫様の視線の先を辿ると、ちょうど山陰に沈もうとする夕日が眼に映る。 その眩しさにそっと眼を逸らし、また姫様に視線を戻す。 その顔は夕日に照らされ赤く染まっていた。 暫く、じっとその横顔を眺めていると、 風がびゅうと吹きつけ、秋から冬への季節の移り変わりを告げていった。 その風に靡く髪を手で押さえ付け、姫様が漸くこちらを見る。 「裏の山では紅葉が綺麗な頃ね。」 綺麗に一つ笑いながら、鈴の鳴るような声で話し掛けられる。 その声に先ほどまでの面影はない。 それに一言だけ返すと、姫様がまた口を開いた。 「お前が暇なら、明日にでも見に行きましょう。」 夕日に照らされ赤く染まっていた顔が徐々に色を失っていく。 直に、陽が沈む。 こつん、と俺の肩に姫様が頭を預けた。 ちょうど姫様の顔は影になり、よく見えない。 「早く行かないと、ね。」 「そうでございますな。」 消えてしまいそうな声で呟く姫様に触れることも出来ない。 いっそ、泣いてくれたら、縋り付いてくれたなら。 抱きしめ、慰めることも出来たのに。 考えれば考えるほど深みに嵌る。 頭を預けるその人は武田の姫様で、自分は一家臣。 身分も、何もかも、違いすぎる。 「幸村、中に戻りましょう。」 気付けば、陽は沈み辺りは暗くなっていた。 ふっと肩から重みが無くなり、熱が離れる。 「ねぇ、幸村。」 立ち上がりながら、声を掛けられる。 先に立ち上がった姫様に続くように立ち、隣に並ぶ。 すぐ後ろの部屋が姫様の部屋だ。 部屋に入ったら、障子が閉められたら、もう見えない。 送る時間すらないことが、惜しい。 「どうしたのでござるか?」 「私の世界から色が消えても、お前だけは消えては駄目よ。」 今にも崩れそうな笑みを浮かべ、それだけ残し姫様は部屋へと戻っていった。 嗚呼、だから、どうして、そんな。 「姫様!」 障子の向こうに消えた姫様に向かって声をあげる。 「なぁに。」 うっすらと障子の向こうに影が見え声が響いた。 「そのようなことを申されなくとも、この幸村、姫様の元から消えることなどありませぬ。 だから、どうか、そのようなことを申すのは止めてくだされ。」 どこか掠れたような情けない声で、閉じられたままの障子に向かい話し掛ける。 しかし俺の言葉に返事はなく、まるで独り言のようだ。 しばらく立ち尽くしていたが、障子が開けられることも、中から返事がくることも無く、 どうしようもないので自分も自室へ戻ろうと背を向けた。 姫様の部屋からは、すすり泣くようなか細い声が聞こえたような気が、した。 |