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赤が散る、
「約束は守るものだと、貴方が教えてくださったじゃないですか。」 私が約束を破ったときに叱ってくださったのは、他の誰でもない貴方じゃないですか。 貴方に触れようとする手が震えて止まりません。私の冷えた手を温めてくれた時のように、貴方の大きな手で包んで止めてくださりませんか? 「さぁ、早く目を開けてくださいな。」 鍛練の休憩中に寝てしまった貴方を起こすのは私の役目ですから。 貴方の姿を捉えようとすると目の前が滲んで見えません。貴方が傷付いた様を見て泣いてしまった時のように、優しく拭っていただけますか? 「いつから、そんなにも静かになってしまわれたのですか。」 いつも、大きな声で私を呼んでくれたのは紛れも無く貴方でしょう。 貴方の名前を呼ぼうとすると喉に引っ掛かって出てきません。いつかの夜のように私の喉元に噛み付くような接吻をください。 「早く屋敷に帰りましょう。」 きっと、いつものように父上と佐助が出迎えてくれるわ。 貴方の体、埃まみれよ。所々、赤いものも付着しているし。屋敷に着いたら落としてあげなきゃね。その前にこの人の大好きなお団子と大福を用意しないと。きっと、いつものようにお腹をすかせてる。熱いお茶もいれてあげなきゃ。この人は私のいれたお茶が大好きだからきっと笑ってくれる。陽の当たる縁側で庭に咲いた花を見ながら、いつものように他愛もない話をするのもいいわ。彼が鍛練をする姿を眺めるのも、この人は照れて嫌がるけど、私は大好きだから悪くない。 ああ、でもその前に言わなくちゃいけないことがあったわね。 「おかえりなさい。」 いつもみたいに笑って言えないわ。 そうしたら、貴方の事だから心配して起きてくれる。 声が震えてるのはどうしてかしら。 きっと、自分のせいだと気付いた彼が抱きしめてくれる。 私が泣いたら慰めるのは貴方でしょう。 ついこの間だって、貴方は私を抱きしめて頭を撫でて何も言わずに慰めてくれたじゃない。 「ねぇ、幸村。私、この戦の前に貴方の六文銭から一文抜いておいたの。貴方は気付いていたかしら。」 だって、何だか嫌な胸騒ぎがしたんだもの。 「三途の川の渡し賃は六文なのよね?じゃあ、五文しかない貴方はどうなるのかしら?」 三途の川を渡れなくて立ち往生?ああ、でも大丈夫よ。 「今すぐ、貴方に届けてあげる。私も一緒に渡るから。屋敷には帰れないけど、きっと父上も佐助もいるから寂しくなんてないはずよ。」
紅が舞う。
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